2025年の初めは、ロシアとヨーロッパの関係に新たな章の始まりとなる。2024年12月31日、ウクライナを通過するソ連時代のパイプラインを経由したロシアの天然ガス輸出が停止された。これは、キエフがロシア国営天然ガス大手ガスプロムおよび自国のナフトガスとの輸送協定を更新しないという決定に続くものだった。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、自国はロシアが「我々の血でさらに数十億ドルを稼ぐ」ことを許さないと述べた。2019年12月31日に調印されたこの協定により、ロシアの天然ガスはウクライナ領土を通過してヨーロッパの顧客に届くようになった。
ガス輸出が停止したにもかかわらず、ヨーロッパではパニックの波は起こらなかった。これは、ロシアとウクライナの間でヨーロッパへのガス供給を脅かす紛争が起これば、ヨーロッパ大陸全体で大騒動が起こり、ガス価格が急騰したであろう、ほんの数年前には想像もできなかったシナリオだ。今回は、ヨーロッパはよりよく準備していた。しかし、この結果をブリュッセルの創意工夫と努力のみに帰するのは、単純化しすぎだろう。さまざまな外部の展開が重なり合い、互いを強化し、数十年にわたるロシアによるエネルギー市場の支配から脱却するというヨーロッパの決意を大幅に強化した。
その結果、今世紀初頭から、欧州委員会はガス供給の安全性を明確な政策目標としてきました。これには、天然ガスやその他のエネルギー資源の「単一供給元」への欧州連合諸国の依存を減らす新しいルートを特定し、構築することが含まれます。
ロシアは唯一の供給国だった。この依存から脱却する取り組みは、それぞれ異なるペースで進められてきたが、近年では液化天然ガス（LNG）の海上貿易の拡大とともに勢いを増している。この変化は、米国のシェールオイル・ガス革命と同時期に起こり、米国は世界のガス供給におけるEUの競争相手から、ロシアの供給に対する戦略的な代替国へと変貌を遂げ、その恩恵を大いに受けた。
わずか数年で、米国は世界最大のLNG輸出国となり、欧州市場で伝統的な供給国、特にロシアから市場シェアを獲得しました。これに対応して、既存および新規のガス生産者は、市場シェアを守るために輸出能力の拡大に力を入れています。この競争の激化は、エネルギー転換とグリーンエネルギーの台頭がガス市場の成長の可能性を脅かし、さらには衰退につながる可能性がある時期に起こっています。
ロシアがかつて支配していたガス市場は根本的に変化した。ロシアとウクライナの間で近いうちに和平協定が成立したとしても、ロシアのガスがかつての覇権を取り戻す可能性は極めて低い。
ウクライナを迂回
ロシアは米国に次ぐ世界第2位の天然ガス輸出国である。しかし、ロシアはパイプラインによるガス輸出ではリードしており、主に従来の主要市場であるヨーロッパにサービスを提供する広範なネットワークを誇っている。
数十年にわたり、ロシアはヨーロッパ最大の天然ガス供給国でした。2000年には、パイプライン経由のヨーロッパへの天然ガス輸入全体の85%、総輸入全体の74%という驚異的な割合をロシアが占めました。この圧倒的な優位性は最近までほとんど揺るぎませんでしたが、ヨーロッパ諸国はロシアの天然ガスへの依存度が高いことに伴うリスクを認識し、多くの国がさまざまな割合でこの依存を減らす措置を講じ始めました。
2022年にロシアがウクライナに全面侵攻した後、欧州は主要供給国への依存度を下げることに成功した。2023年までに、欧州におけるロシアのパイプラインガスのシェアは、大陸へのパイプラインガス輸入全体の45％に縮小し、欧州のガス輸入への総貢献は25％に達した（ロシアが輸入の7％を占めるLNGを含む）。
EU とロシアのガス相互依存は諸刃の剣だった。ロシアはヨーロッパ最大のガス供給国である一方、ヨーロッパ大陸はモスクワ最大の市場でもあり、ドイツだけでロシアのパイプラインガス輸出の半分以上を占めていた。この依存関係は単に地理的な近さだけによるものではなかった。パイプライン輸送の自然な特殊性により、生産者と消費者の多様化の選択肢が制限されていた。通常、彼らは契約期間中ずっと変わらないかなり厳格な取引条件で長期契約を締結することになる。
ロシアは、主要市場でのプレゼンスを強化しつつ、1つの主要輸送ルート（主にウクライナ、ソ連時代のウレンゴイ・ポマリ・ウージュホロド・パイプライン（別名同胞団パイプライン）経由、1983年に運用開始）へのエクスポージャーを減らすため、過去20年間にわたりパイプライン網に投資してきた。これには、2003年に開始された黒海の海底を通りトルコに至るブルー・ストリーム・パイプライン、2006年に運用開始されたベラルーシ経由でポーランドとドイツを横断するヤマル・ヨーロッパ・パイプライン、2011年から運用開始されたベラルーシとリトアニアを通るミンスク・カリーニングラード・パイプラインなどがある。 2011年に稼働を開始したバルト海の海底からドイツに至るノルドストリーム1と、2020年に開始された南ヨーロッパまで延びるトルコストリームパイプライン。さらに、2021年9月に完成したバルト海の海底からドイツに至るノルドストリーム2パイプラインは、建設されたものの、ロシアとウクライナの紛争のため稼働しませんでした。
新しいパイプラインがあれば、ロシアからヨーロッパへの天然ガス輸出におけるウクライナのシェアは、1990年代初頭の90％以上から13％に低下するだろう。計画中のパイプライン（トルコストリーム3と4）も建設され、トルコ経由で南ヨーロッパに天然ガスが供給されれば、ウクライナの輸送ビジネスは完全に消滅するだろう。このシナリオはロシアにとって商業的に非常に理にかなっており、政治的にも好ましい影響があった。
しかし、ロシアからヨーロッパへのパイプラインガス輸出能力が最も高かったノルドストリーム1と2の妨害と、ポーランドが2022年にヤマルパイプラインの供給を停止したことで、ロシアの野望は挫折した。
LNGが救世主
欧州にとって幸運なことに、ロシアとのパイプライン貿易の混乱は、世界のガス貿易が根本的に変化している時期に起きた。ノルウェーは、欧州のガスパイプライン部門でロシアが失った市場シェアの一部を確かに取り戻した。
それでも、海上輸送されるLNGは最も大きな変化をもたらしました。世界的に、2011年から2021年の間に、地域間のLNG貿易はパイプライン貿易の4倍以上の速さで成長しました。2020年には、LNGとして取引されたガスの量が初めてパイプライン輸送量を上回りました。
LNG輸出入ターミナルは欧州をはじめ世界各地で急速に拡大している。例えば、2022年までパイプラインによる天然ガス輸入のみに依存していたドイツは、LNG輸入施設を迅速に建設し、カタールなど主要輸出国との長期契約を確保した。隣国ポーランドは2016年に初のLNGターミナルを開設し、最近拡張工事を完了し、同国の処理能力を大幅に増強した。
シェール革命は、膨大な天然ガス資源を解き放ち、米国のエネルギー情勢を大きく変えました。その結果、米国は急速に生産量を増やし、世界最大のLNG輸出国として浮上しました。2023年には、米国はヨーロッパへの最大のLNG供給国にもなり、大陸全体のLNG輸入量の45％を占めています。米国のLNGの主な特徴は、通常、スポット市場価格で販売され、カタールなどの他の主要なガス輸出国の場合のように長期契約に縛られていないことです。この柔軟性により、米国のサプライヤーは需要の増加などの市場状況の変化に迅速に適応できます。
米国のLNG輸入の増加により、欧州はエネルギー源を大幅に多様化できる。これに対応して、EUは2027年までにロシアからの天然ガス輸入を段階的に廃止するという野心的な目標を設定した。この目標は法的拘束力はないが、このようなシナリオは数年前には想像できなかっただろう。
欧州のガス供給の情勢の変化は、大きな代償を伴っている。天然ガス価格は2022年以前の歴史的平均よりも高いままだが、ロシアのウクライナ戦争が始まった直後の2022年夏に達した最高価格と比べると、現在はほんのわずかだ。こうした価格上昇は、特に米国からのLNGを欧州に引き寄せ、危機の比較的迅速な解決につながった。
LNG市場におけるロシアの課題
ロシアは、米国からの脅威が増大する中、ウクライナを迂回し、欧州市場での地位を守るためのもう一つの戦略として、LNGの拡大を利用しようとしてきた。LNGは顧客に柔軟性と選択肢を提供するだけでなく、生産者にも利益をもたらす。パイプラインからLNG輸出に移行すれば、ロシアは柔軟性を高め、パイプラインに固有の選択肢の制限や輸送の悩みから解放されるだろう。
To facilitate the expansion of its LNG trade, a law on LNG export liberalization came into force in Russia on December 1, 2013. This law allowed companies other than Gazprom (and its subsidiaries), which maintained a monopoly on pipeline gas exports, to export LNG. Despite the changes, the companies benefitting were predominantly government-backed or controlled entities. More recently, several Russian LNG projects have come onstream. Although the country’s LNG exports are still small compared to its traditional pipeline business, it now accounts for 31 percent of total exports of Russian gas in 2023, up from 20 percent two years earlier.
While most of Russia’s pipeline gas supply to the EU was disrupted following the Ukraine war, LNG deliveries from Russia to Europe increased. In 2024, nearly 70 percent of Russian LNG reached Europe, accounting for nearly 17 percent of European LNG imports, compared to 12 percent in 2023.
Russia is currently the fourth-largest LNG exporter after the U.S., Qatar and Australia. Due to its relatively low cost, large resource base and geographical positioning, Russian LNG has the potential to be among the most profitable LNG on global markets. Nevertheless, its outlook will be determined by the sanctions regime.
Before the war in Ukraine, Russia was poised to significantly expand its LNG export capacity. However, sanctions imposed by the U.S. and the EU, particularly those targeting LNG, have dampened those prospects. The measures, which were mostly imposed in response to Russia’s invasion of Ukraine, came on top of restrictions put in place after Moscow annexed Crimea in 2014, which had already limited its access to advanced LNG technologies.
While the 2014 sanctions had a limited effect, the Russian government supported the development of domestically produced LNG export technology. This was a key part of its roadmap to localize critical energy equipment necessary for mid- and large-scale LNG projects. Despite that, the recent and more comprehensive sanctions significantly restrict Russia’s long-term LNG ambitions. It is therefore unrealistic to expect the bulk of Russia’s LNG projects – especially the larger ones – to materialize in the near future.
Developing LNG technologies and infrastructure requires substantial investment, which is challenging without access to Western financing and technology. A prime example are the recent delays and setbacks the Arctic LNG 2 project has faced. Led by Russia’s largest independent gas producer, Novatek, the project has an annual design capacity of 19.8 million tons per annum (mtpa). Yet, so far, only one train, able to produce 6.6 mtpa, is operational.
“Our goal is to ensure that Arctic LNG 2 is dead in the water. … We’re very focused on ensuring that Russia is not able to develop new projects in order to redirect the gas that it had previously sent into Europe,” Geoffrey Pyatt, former U.S. Assistant Secretary of State for Energy Resources, said last year. Russia condemns the sanctions, unsurprisingly, and attempts to cast the U.S. as the aggressor.
Pursuing new avenues in Asia
Russia has also pursued opportunities in another key market: Asia, particularly China, where gas demand is growing faster than in Europe. Currently, Asia consumes 32 percent of total Russian gas exports, of which 73 percent goes to China. These shares are expected to increase in the coming years.
The Power of Siberia 1 is currently Russia’s only direct operational pipeline to the Asian market. It was agreed upon in 2014 and began operations in 2019. It connects Russia’s far-east gas fields to China. In this respect, the gas exported through this route does not compete with the gas sent to Europe, which comes from gas fields in West Siberia.
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In February 2022, Russia announced a more strategic project: the Power of Siberia 2 pipeline. Under a 30-year contract, it is expected to be operational in 2030. However, the agreement has yet to be finalized, and there have been reports of construction delays that may push back its launch date even further.
If completed, the Power of Siberia 2 pipeline would allow Russia to offset its gas exports to Europe. The pipeline would supply gas from the West Siberian gas fields to China via Mongolia. Thus, the pipeline would theoretically give Russia the flexibility to direct gas flow either to the West or the East.
The reality, however, is more complicated. Constructing the Power of Siberia 1 took more than a decade, while the Power of Siberia 2 is expected to take more than twice that time due to its extensive length and diplomatic complications of the pipeline passing through a third country. By the time the project is finished, the gas market landscape will likely look different. Furthermore, China’s position as the sole buyer of Russian pipeline gas to Asia leaves Moscow in a weaker bargaining position.
Russia's natural gas landscape
ロシアは世界最大の証明済みガス埋蔵量（20%）を誇り、米国に次ぐ第2位の生産国および消費国である。ロシアからヨーロッパに至る最古の主要パイプラインは、ウクライナ経由のウレンゴイ・ポマリ・ウージュホロド・パイプライン（別名同胞団パイプライン）である。このパイプラインは1983年に運用を開始した。2023年には、中国がロシアのLNGの最大の買い手となる。米国の天然ガス生産量はロシアの1.7倍以上である。2023年、ロシアは「シベリアの力1」パイプライン経由で213億立方メートル（bcm）のガスを中国に送ったが、2025年までに輸出量を380億立方メートル（パイプラインの年間設計容量に達する）に増やすと予想されている。
対照的に、中国には国内生産のほか、中央アジア、東アジア、米国、オーストラリア、カタールなどのLNG供給源からの輸入など、さまざまな供給オプションがあり、今後数年間で輸出能力を大幅に拡大することを目指しています。さらに、中国のエネルギー安全保障目標は、輸入ポートフォリオの多様化に重点を置いています。
この点では、問題を抱える欧州と中国という唯一の買い手との間でロシアが選択するのは理想的とは言えない。さらに、この地域の他の確立した輸出国と比べると、ロシアはすでに活気のある市場に参入した比較的新しい国である。
あり得ない：ロシアが欧州のガス市場で優位を取り戻す
ロシアは天然ガス資源が豊富で、世界の主要な供給国である。2014年以降、ロシアはエネルギー部門を標的とした制裁を何度も受けており、ウクライナ戦争以降は制裁がさらに厳しくなっているが、それでもこの状況は変わらない。制裁が解除されれば、ロシアはアジアでの取り組みを継続しながら、欧州で以前の市場を取り戻す道を見つけることができるかもしれない。しかし、そのようなシナリオはありそうにない。
可能性が高い：競争市場におけるロシアのガス覇権の衰退
地域および世界のガス取引の情勢の変化を考慮すると、ロシアのガスがかつての覇権を取り戻す可能性は低いことがますます明らかになっています。既存のLNG生産者だけでなく、新興の代替エネルギー源、特にグリーンエネルギーとの競争も激化しています。
さらに、モスクワはアジア、特に中国に軸足を移しているが、この地域での需要増加がロシアの見通しを大幅に改善する可能性は低い。アジア市場への焦点の移行は、中国のエネルギー安全保障と価格戦略、そして気候変動問題への北京の取り組みに大きく左右される。
したがって、これらの要因を考慮すると、将来的に最もあり得るシナリオは、ロシアのガス覇権が衰退し、より競争的な市場環境が生まれることである。
出典:GISレポートオンライン
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